第20回山頭火俳句コンテスト入選句


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2025/05/24

川棚を愛した漂泊の俳人・種田山頭火にちなんで毎年開催している「山頭火も愛した川棚温泉俳句コンテスト」、第20回となる今年は30都府県586名からのご応募をいただき、厳正な審査の結果、最優秀賞1名、優秀賞5名、特別賞5名を選定いたしましたのでご紹介いたします。句評は審査委員長を務めていただいた平川扶久美先生(山口県現代俳句協会理事・事務局長)によるものです。

★最優秀賞★

ふるさとの訛り弾ける足湯なか
 正宗利昭

 川棚温泉に来訪者と地域の方の交流の場になればと「癒しの庭 手湯・足湯」が設けられました。透明な光あふれる三角屋根の東屋に手足を浸しながら、老若男女が集い会話の弾んでいる様子を目にしました。ふるさとの訛りは、やがて来訪者のお国訛りと交わり楽しい社交の場となっていきます。「訛りはじける」という生き生きとした言葉遣いに誰もが笑顔になれる一句です。

★優秀賞★

空見上げ桜まい散る足湯かな
 大利菜々美

 川棚温泉の足湯のそばには桜の木があります。空・桜・足湯と風景がはっきりと浮かんできます。それはまるで桜の舞い散る瞬間を切り取っている絵画の様です。「癒しの庭」と呼ばれる足湯が、川棚の地に溶け込んで四季の移ろいと共に人々と関わり合い、この美しい句のように豊かに色づいていくことがとても楽しみですね。

名残り雪転んで愉し茶臼山
 芝田里子

 春になっても消えずに残っている雪。春に降る雪を「名残り雪」といいます。“転んでも愉しい”という気持ちと春が近いことを想像させる季語が、とても良く響き合っています。澄んだ山の空気の中のはしゃぎ声までも聞こえ、本格的な春到来へのワクワク感が伝わります。

樟の実や空一枚へ深呼吸
 田中正博

 樟の木を見上げた時、視界に入るのは黒紫色の実、そしてその先に広がる空です。「空一枚」という表現はとても魅力的で、秋の雲ひとつない清々しい空を想像させます。常緑樹である樟の豊かな緑色、その光る実の黒紫色、空の青色が視覚に訴えかけてきます。深呼吸は、気持ちの切り替えなのでしょう。情景のその奥に作者の深い思いが感じ取れます。

お日さまがライトみたいねひびきなだ
 中村環那

 雲の隙間から太陽光が海面を射している様子を「日矢」「天使の梯子」と呼びます。作者はその光景を「ライトみたい」と自分の言葉で素敵に表現しました。口語表現の柔らかさが効果的な句です。不思議で美しい光景は、幸運の前兆とも呼ばれています。

クスの森木の葉と遊ぶ風の声
 中山つむぎ

 木の葉の揺れる様をじっと見ていると葉擦れの音と風の音が交差してきます。「木の葉と遊ぶ風の声」という感性豊かな表現に一瞬で心をつかまれました。クスの森の前に立ち耳を澄ませて自然と対峙している姿は、これから始まる物語の主人公のように思えてきます。 

★特別賞★

<青龍賞>
せいりゅうだいこたいこの音でりゅうがきた
 塩瀬唯音

 「青龍太鼓」は、温泉を残してくれた青龍へのご恩返しとして川棚温泉に受け継がれています。力強い音色は、身体の中に響きやがて大地を這う音となって大きく谺します。その様子を「りゅうがきた」と捉えた作者の素直で瑞々しい感性に惹きつけられました。

<ユーモア賞>
ユニークな貌して出て来る瓦そば
 羽場愚朗

 熱々の瓦にのって出てくる茶そばは、初めての人にとって美味しさと共に新鮮な驚きのようです。「ユニークな貌」とは言い得て妙です。差し詰め、もみじおろしののったレモンの輪切りは“目”でしょうか。直感的なひらめきは、くすっと笑え愉快です。日々を大切に楽しんで過ごされている様子が伺えます。

<ふるさとの空は青い賞>
しゃらしゃらと子猿つながる猿幟
 吉田紫紅

 「猿幟」とは、鯉のぼりと同じように揚げられていた端午の節句の幟飾りです。かつては下関地域でも目にすることができました。着物の端切れなどを工夫し、ひと針ごと子どもの成長を祈り縫い上げられた子猿が連なり、風を受けて登っていく姿はなんとも愛らしく格別な思いが湧きます。「しゃらしゃら」という擬音は絹布の質感、鈴の音を際立たせとても効果的です。五月の光と風を感じる明るく心地よい一句です。

<風の詩人賞>
長閑さや孤留島よりの風とどく
 美春

 「長閑(のどか)」は空が晴れて穏やかな春の日のさまを言う季語です。冬の寒い厳しさが過ぎ去ったあとは、格別に敏感にそれを感じ取れます。頬に受ける風を眼前の孤留島からの風だと鋭敏に察知した詩的な感覚に惹かれました。「長閑」「孤留島」の漢字の字面もイメージを大きく膨らませます。

<未来賞>
クスの森大木に告ぐ未来の決意
 山根はるら

 夢が丘中学校の二年生が、将来の夢や目標について誓う立志式が、川棚クスの森で行われました。将来の夢やなりたい大人の姿などを大木の前で声に出していう姿は、晴れやかで誇らしいものです。この句は、その時のまっすぐな気持ちが詰まっています。樹齢千年の大木が決意をしっかりと受けとめ見守ってくれます。







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豊浦観光協会