第19回山頭火俳句コンテスト入賞作品


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2024/05/31

川棚を愛した漂泊の俳人・種田山頭火にちなんで毎年開催している「山頭火も愛した川棚温泉俳句コンテスト」、第19回となる今年は27都府県495名からのご応募をいただき、厳正な審査の結果、最優秀賞1名、優秀賞5名、特別賞5名を選定いたしましたのでご紹介いたします。句評は審査委員長を務めていただいた平川扶久美先生(山口県現代俳句協会理事・事務局長)によるものです。

★最優秀賞★

願掛けに大楠撫づる春ショール
 小野千代美(大分県)

 天然記念物川棚クスの森を詠んだ句。作者自身の願いごとと共に、元気がなくなった楠が復活する様にと祈られたのでしょう。そしてその願掛けのために薄く柔らかい素材の春ショールで木肌を撫でたという行為にとても魅力を感じました。また、春ショールを纏った人とも捉えることもできます。纏う人もそれを見る人も春の訪れを明るく心に感じることのできる「春ショール」という言葉が優しさを醸し出し、希望へと繋がります。


★優秀賞★

春泥を踏み十三仏の岩谷みち
 河野一遊(山口県)

 春泥とは、凍解や雪解、雨などで乾ききっていない春のぬかるみを言います。大内義隆公供養として作られた十三体の石仏を拝みながら、一歩一歩力強く歩いている姿が浮かびます。情景がはっきりと浮かび、作者の息使いまでも聞こえてきます。やがて、訪れる暖かい春への期待感、生命力までも感じ取れる静かな描写の句です。


夏めくや学校にいる青い龍
 日髙翔太(埼玉県立特別支援学校坂戸ろう学園)

 この季節は、陽射しや風の吹き具合、樹々のつややかさも増し緑の世界が広がります。「夏めく」という季語には、初夏の新しいエネルギーが五感を刺激する様な語意があります。作者はその五感の上の、第六感を働かせ、気配を感じ目には見えないものが見えています。この地の守護神である青い龍が学校にいる、と言い切ったところがとても魅力的です。


クスの森どんと入道雲ありぬ
 まなみ(兵庫県)

 大男の立ちはだかる姿に、空高くむくむくと湧き上がる様子が似ているということから名付けられた入道雲は盛夏の季語です。以前のクスの森は、この入道雲と競い合うように、大きく、生気に溢れ聳え立っていました。山頭火も詠んだこのクスの森の再生を願う気持が伝わってくる力強い一句です。


何ぞ問ふ草のいきれに蟹ヶ池
 吉田紫紅(大分県)

 草のいきれとは、夏草のむっとする匂いのことで、草の息とも言います。禅問答の問いと答えのやり取りを自分自身の心の中でくり返しているのでしょう。自然との対峙に見て取れます。「蟹ヶ池」は、三恵寺の蟹問答の伝説の池です。名称に纏る伝説を取り入れた句は、読み手の想像が大きくふくらみ、その場にいるような感覚も起こります。水の神様となった蟹の泡の音がぶつくさと聞こえる様な俳諧味があります。


鬼ヶ城に向かって走る運動会
 よし村苺(誠意小学校) ※よしの漢字は土に口

 源頼光が退治した大江山の酒呑童子の子分だった霞陰鬼が逃げこんだ山といわれる鬼ヶ城山。小さな頃から目にしている山には、愛着と親しみがあります。その山に向かって走る運動会、何とも生き生きと子どもたちの歓声が聞こえてきます。「向かって走る」という表現が、この句のポイントです。「鬼ヶ城」という力強い名前もそれを後押しし、生命力が漲ります。


★特別賞★

巡礼の笠に蝶のおだけみち
 河野京(山口県)

 同行二人賞とします。「おだけみち」とは、弘法大師信仰の山、狗留孫山霊場八十八箇所総本寺修禅寺へと詣でる道です。その信仰の山を歩く笠に蝶が止まったという静けさの中の一瞬を切り取った情景に、より心が洗われます。蝶がまるで寄り添うかのように巡礼の道程を軽くします。


若嶋座過の声風か桜踏む
 佐澤さつき(山口県)

 川棚温泉賞とします。川棚温泉には江戸時代中頃から昭和十五年まで約二百年間続いた、全国でも珍しい地方芝居・若嶋座がありました。温泉町のエネルギーの象徴で、温泉文化が最も栄えていた時代だそうです。かつての賑わい、騒めきを風音に聴きながら思いを馳せ歩いている姿が浮かびます。散り敷く桜も、華やかさの後の寂しさを強調して取り合わせの妙が光ります。


冬休みこたつにもぐってみかんがり
 長村健芯(夢が丘中学校)

 日本の冬賞とします。至福の時間を過ごしている様子が、かわいらしく笑みがこぼれます。こたつでみかんを食べていることを「みかんがり」と大人の想像の範囲を広く超えて表現したところが愉快で、日々の生活を明るく過ごしている作者がよく見えます。素直な流れるようなひらがなの文字が気持ち良く響きます。


でんしゃはがたごとぼくはてくてくくろねこぐうぐう
 福光玲音(誠意小学校)

 オノマトペ賞とします。リズミカルで文句なしに楽しく愉快です。がたごと、てくてく、ぐうぐうとオノマトペを並べたところが効果的です。全文字をひらがなで、大きなものから順にでんしゃ、ぼく、くろねこと続け、動いているでんしゃとぼく、最後に寝て動かないくろねこを置いたところにとても感心しました。通学路の脇を通る山陰線ののどかな走りもよく伝わります。


響灘海風に揺れる一人時間
 藤岡愛子(夢が丘中学校)

 詩人賞とします。とても詞的な句です。「一人時間」という言葉が素敵に響いてきます。海を眺めながらじっと佇んでいると、いやなこと楽しいことなど色々なことが巡ります。自分の中の自分と対話することを客観的に「海風に揺れる」と捉えたところも秀逸です。多感な十代の作者の表現は、どの年代の人の心にも通じます。「響灘」という地名の語感が印象をより深めています。


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