
2026/05/23
川棚を愛した漂泊の俳人・種田山頭火にちなんで毎年開催している「山頭火も愛した川棚温泉俳句コンテスト」、第21回となる今年は34都道府県から698句のご応募をいただき、厳正な審査の結果、最優秀賞1名、優秀賞5名、特別賞5名を選定いたしましたのでご紹介いたします。句評は審査委員長をお務めいただいた平川扶久美先生(山口県現代俳句協会理事・事務局長)によるものです。
★最優秀賞★
海風山風川風川棚の風 香田明彦
自然豊かな川棚の地を明快な言葉で見事に表現しています。海風山風川風と三拍子揃ったのが川棚の風であると言い切った作者の大らかな感覚がとても新鮮に響いてきます。今までにないシンプルな句は、一瞬にして読み手を納得させてくれます。漢字ばかりを用いて、視覚的にも印象に残り、心をつかみます。
★優秀賞★
生きとるか楠木ワシも生きとるぞ 泊雲
クスの森の楠木の再生は、誰もが気にかけ、優しく見守っています。話し言葉で呼びかけ、自らも元気に生きていることを伝えています。「ワシ」とは高齢男性や西日本特有の一人称です。あえて「ワシ」という口語を使うことで、少しくだけて、親しみやすく聞こえます。この明るい優しさのある言葉が、楠木に届くことを願ってやみません。
青龍泉湯気が連れ来し天の川 岐路
とても良く情景のわかる綺麗な句です。青竜泉の白い湯気が高く宙まで上がり、またたく天の川を連れて来たというダイナミックな風景が目の前に広がります。「青龍泉」という名称の持つ意味が、力強くこの句をより一層引き立てています。湯気と天の川が繋がり、一頭の龍のように見え、想像力をかき立てます。
龍天に登る足湯のうねる湯気 早坂喜熊
「龍天に登る」とは春分の頃の季語です。冬に眠っていた龍が動き出し、天に登る頃を、春の始まりの象徴として捉えています。青龍伝説がある川棚にふさわしい季語だと思います。まだ肌寒い春の足湯の湯気を龍がうねっていると感じたのでしょう。季語との取り合わせが効果的な一句です。
あつしまのそらをみてねころがる。 小嶋大智
とても気持ちの良い句です。あつしまの上に広がる空を見上げながらねころぶと、いつのまにか自分も空に溶け込んでいくようです。包まれるような空の色や大地のあたたかさまでも 伝わってきます。「ねころがる」という行為が、いつもと違った風景を引き寄せ、普段気が付かないことも教えてくれそうな気がします。
コスモスは風にゆられる朝花火 森村つむぎ
コスモスは、花も葉も色や形がとても綺麗な植物です。その コスモスを見て「風にゆられる朝花火」と表現した作者の感性に驚かされました。「朝花火」という言葉を自分で発見したところが優れていると思います。普通は夜のものである花火を、朝のコスモスに見つけたというところが、この句の最大のポイントです。感覚的で大好きな一句です。
★特別賞★
川棚で地球の廻る音を聞く 石井秀一
<地球の真ん中賞> 川棚温泉は下関市の奥座敷と呼ばれ、数多くの偉人たちに 愛された地です。なだらかな山や美しい海といった自然に囲まれて、ゆっくりと流れる時の中につかると、まるで地球の中心にいるようで、本当に「地球の廻る音」が聞こえてくるようです。作者のスケールの大きい物の捉え方は、独創的で魅力的です。
盗餅馬の笑顔の水や春近し 吉田紫紅
<春のお福分け賞> 川棚の小正月の行事に「盗餅馬」というものがあります。まず祝い事のあった家に祝儀としてワラ馬を贈り、貰った家は返礼をするのですが、その際に品物と一緒に何と贈り主に水をかけるのです。寒い中だというのに、水をかける方もかけられる方も笑顔です。それを「笑顔の水」と表現し、「春近し」という早春の季語の雰囲気を醸し出しています。
懸り藤しばらく鯉とにらめっこ 式あした
<笑ったのはどっちで賞> 妙青寺の懸り藤と悠々と泳ぐ鯉の姿はとても美しく、フォトスポットとなっています。水面に垂れ下がる藤の花と鯉の様子をじっと眺めていたら、何だかにらめっこしているみたいに思えてきたというユーモラスな句にくすっと笑いました。この作者のように角度を少し変えて日常を見てみると、意外な幸せや楽しみを見つけられて、豊かな 時間を過ごせそうです。
潮騒も律を奏でる孤留島 吉山行雄
<潮騒の思い出賞> 1952年の日本公演で川棚温泉に滞在したフランス人ピアニストのアルフレッド・コルトーに由来する「孤留島」。コルトーが「カワタナの夢の島」と語ったその島の潮騒が、コルトーが 奏でる「律」のように作者には聞こえたのです。コルトーが島を愛したように、潮騒の音もいつまでも彼を忘れずに響いていくでしょう。
はじまりは桜菜の花赤き汽車 井村千春
<はじまりの色賞> 作者は先生とのことです。もしかするとこの春に赤い山陰線に乗って赴任されてきたのでしょうか。桜、菜の花、汽車とそれぞれの色が、はじまりの不安を打ち消すように明るくだんだんと濃くなり、作者を優しく迎えています。一枚の絵のような句に、これからはじまるであろう色々な物語が膨らんでいきます。



2026/05/23
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